FDM・光造形・SLSを「事業視点」で比較する — 品質ではなく採算で選ぶ

この記事の要点

  • 事業で使う3Dプリンター選びは「造形品質」ではなく「時間あたりの利益」と「歩留まり」で決める
  • FDMは実用品・治具に、光造形は精細な小物・原型に、SLSは量産級の機能部品に向く
  • 見落とされがちなコストは「後処理の人件費」。光造形は洗浄・二次硬化で1個あたり10〜15分の作業が乗る

対象読者:機材選定中の方(副業〜事業)/難易度:★★☆/読了目安:10分

目次

趣味の比較記事と事業の比較は、軸が違う

「FDM vs 光造形」の比較記事は世の中に山ほどありますが、その多くは趣味の視点(きれいに造形できるか)で書かれています。事業視点では、比較すべき軸がまったく変わります。

  • 歩留まり — 100個作って何個売り物になるか。失敗率5%と20%では利益が別世界
  • 総作業時間 — 印刷時間ではなく、段取り+印刷+後処理+検品の合計
  • 連続稼働性 — 夜間・無人で回せるか。事業の生産能力を決める
  • 材料の入手性と単価 — 特定メーカー専用材は値上げリスクを抱える
  • 設置環境の制約 — 臭気・換気・廃液処理は自宅事業の可否を左右する

方式別・事業視点の比較

FDM(熱溶解積層)— 事業の主力になる万能機

  • 向く用途:実用品(治具・工具・部品・スタンド類)、大きめの造形物、試作
  • 強み:材料が安く(PLA 1kg 2,000円前後)入手性抜群。後処理がほぼ不要で、印刷完了=ほぼ完成品。夜間無人運転も現実的
  • 弱み:積層痕が残る。微細形状・なめらかな曲面は苦手
  • 事業の目安:初期投資5〜15万円。受託・実用品販売なら第一候補。2台目を早めに入れると生産能力と故障リスクの両方が改善する

光造形(SLA/MSLA)— 精細さで単価を取る機械

  • 向く用途:フィギュア原型、アクセサリー、ミニチュア、歯科・模型など精細品
  • 強み:0.05mm級の表現力。FDMでは出せない造形=高単価が狙える
  • 弱み:ここが事業の落とし穴。洗浄(IPA等)→二次硬化→サポート除去で1個10〜15分の人件費が乗る。レジンの臭気と皮膚感作性(素手厳禁)、廃液処理も必須。家族の理解がないと自宅運用は破綻しがち
  • 事業の目安:本体3〜8万円+洗浄硬化機1〜2万円+換気対策。単価3,000円以上の精細品で勝負するなら」

SLS(粉末焼結)— 量産級だが個人にはまだ遠い

  • 向く用途:サポートレスの機能部品、ナイロン製の最終製品、小ロット量産
  • 強み:強度・耐久性が射出成形品に近く、「最終製品」として売れる品質。サポート不要で複雑形状も自由
  • 弱み:安くなったとはいえ本体100万円級+粉末管理の手間。個人が買うよりSLS対応の造形サービスに外注する方が合理的な場面が多い
  • 事業の目安:「設計と販売は自分、SLS造形は外注」のハイブリッドが現実解。月産数百個が安定してから内製化を検討

「1個あたり総作業時間」で計算してみる

例として、同じ小物(高さ5cm程度)を各方式で作る場合の目安を挙げます(機種・設定で大きく変わるため、あくまで考え方の例です)。

FDM光造形
段取り(スライス・準備)5分5分
機械時間(印刷)90分(無人)60分(無人)
後処理(人が拘束される時間)2〜5分10〜15分
失敗率の目安(安定後)3〜5%5〜10%
人件費が乗るのは「後処理」。ここを軽視すると光造形の利益は溶ける

機械時間は寝ている間に進みますが、後処理はあなたの時給がかかる時間です。「1日に何個分の後処理ができるか」が光造形事業の生産能力上限になります。

結論 — 何から買うべきか

  • 迷ったらFDMから。材料が安く、後処理が軽く、失敗してもダメージが小さい。事業の練習台として最適
  • 精細品で高単価を狙うと決めているなら光造形。ただし換気・廃液・後処理時間を事業計画に織り込むこと
  • SLSは外注から。内製化は月産数百個が安定してから

次に読む:具体的な機種の比較は機材DBで。買う前の計画づくりははじめてガイド、値付けの考え方は原価計算の記事(準備中)でどうぞ。

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この記事を書いた人

3Dプリンター歴10年以上・元大手メーカー開発職。3Dプリンター本体・関連製品を販売するEC事業者として、企業・個人向けの導入支援やセミナーも手がける。Japan RepRap Festival(JRRF)副代表。VoronやVZBotなどオープンソース機のチューニングから最新市販機の検証まで、実機ベースで発信しています。

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